2016年05月16日

と閉める



「よくわかるわ」とハツミさん言って、冷蔵庫から新しいビールを出してくれた。

「それにあの人、外務省に入って一年の国内研修が終ったら当分国外に行っちゃうわけでしょうハツミさんはどうするんですかずっと待ってるんですかあの人、誰とも淚溝價錢結婚する気なんかありませんよ」

「それもわかってるのよ」

「じゃあ僕が言うべきことは何もありませんよ、これ以上」

「うん」とハツミさんは言った。

僕はグラスにゆっくりとビールを注いで飲んだ。

「さっきハツミさんとビリヤードやっててふと思ったんです」と僕は言った。「つまりね、僕には兄弟がいなくってずっと一人で育ってきたけれど、それで淋しいとか兄弟が欲しいと思ったことはなかったんです。一人でいいやと思ってたんです。でもハツミさんとさっきビリヤードやってて、僕にもあなたみたいなお姉さんがいたらよかったなと突然思ったんです。スマートでシックで、ミッドナイトブルーのワンピースと金のイヤリングがよく似合って、ビリヤードが上手なお姉さんがね」

ハツミさんは嬉しそうに笑って僕の顔を見た。「少なくともこの一年くらいのあいだに耳にしたいろんな科白の中では今のあなたのが最高に嬉しかったわ。本当よ」

「だから僕としてもハツミさんに幸せになってもらいたいんです」と僕はちょっと赤くなって言った。「でも不思議ですね。あなたみたいな人なら誰とだって幸せになれそ激光脫毛中心うに見えるのに、どうしてまたよりによって永沢さんみたいな人とくっついちゃうんだろう」

「そういうのってたぶんどうしようもないことなのよ。自分ではどうしようもないことなのよ。永沢君に言わせれば、そんなこと君の責任だ。俺は知らんってことになるでしょうけれどね」

「そういうでしょうね」と僕は同意した。

「でもね、ワタナベ君、私はそんなに頭の良い女じゃないのよ。私はどっちかっていうと馬鹿で古風な女なの。システムとか責任とか、そんなことどうだっていいの。結婚して、好きな人に毎晩抱かれて、子供を産めばそれでいいのよ。それだけなの。私が求めているのはそれだけなのよ」

「彼が求めているのはそれとは全然別のものですよ」

「でも人は変るわ。そうでしょう」とハツミさんは言った。

「社会に出て世間の荒波に打たれ、挫折し、大人になりということ」

「そう。それに長く私と離れることによって、私に対する感情も変ってくるかもしれないでしょう」

「それは普通の人間の話です」と僕は言った。「普通の人間だったらそういうのもあるでしょうね。でもあの人は別です。あの人は我々の想像を越えて意志の強い人だし、その上毎日毎日それを補強してるんです。そして何かに打たれればもっと強くなろうとする人なんです。他人にうしろを見せるくらいならナメクジだって食べちゃうような人です。そんな人間にあなたはいったい何を期待するんですか」

「でもね、ワタナベ君。今の私には待つしかないのよ」とハツミさんはテーブルに頬杖をついて言った。

「そんなに永沢さんのこと好きなんですか」

「好きよ」と彼女は即座に答えた。

「やれやれ」と僕は言ってため息をつき、ビールの残りを飲み干した。「それくらい確信を持って誰かを愛するというのはきっと素晴らしいことなんでしょうね」

「私はただ馬鹿で古風なのよ」とハツミさんは言った。「ビールもっと飲む」

「いや、もう結構です。そろそろ帰ります。包帯とビールをどうもありがとう」

僕が立ち上がって戸口で靴をはいていると、電話のベル網路購物が鳴りはじめた。ハツミさんは僕を見て電話を見て、それからまた僕を見た。「おやすみなさい」と言って僕はドアを開けて外に出た。ドアをそっときにハツミさんが受話器をとっている姿がちらりと見えた。それが僕の見た彼女の最後の姿だった。
  


Posted by だけを平らに削っ at 12:17Comments(0)
QRコード
QRCODE
庄内・村山・新庄・置賜の情報はコチラ!

山形情報ガイド・んだ!ブログ

アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 0人
プロフィール
だけを平らに削っ