2017年09月13日

さんのを上げる代


「……さあちゃん、意地悪だ。昔は女の子みたいに可愛かったのに。」

ふっと禎克は笑った。あれほど開いていた距離が一瞬で縮まった気がする。
大二郎の身長が思ったよりも伸びていなかったせいだろうか。庇護欲がふわりと湧き上がった。縋って泣いたのを可愛いと思ってしまう。

「大二郎くんは、変わらないね。前は、ぼくよりも頭一つ大きかったのに。」さあちゃんってば、そんなびっくりするようなビジュアルのくせに、これまで何懷孕前準備もなかったのか?信じられない。良く、これまで無事だったね~。」

大二郎はその場で、とうとう笑い転げてしまった。きっと禎克は、周囲の必死の接近にも気付かずに、これまで飄々と受け流してやりすごして来たのに違いないと、内心思う。ほんの少し、顔も知らない誰かに同情した。

「仕方ないだろう、ずっと部活で忙しかったんだから。言っておくけど、もてなかったわけじゃないぞ。バレンタインとか、すごかったんだから。」

禎克はむくれていた。まるでキス一つ満足させてやれなかった自分が、幼稚だと言われたような気がする。

「さあちゃん……。わかってるよ。おれ、さあちゃんに貰ったキスがすごくうれしかったんだ。馬鹿にしたんじゃないよ、信じて?」

「大二郎くんのキス、なんか……手慣れてた気がする。絶対、初めて懷孕營養補充品じゃないよね。これまでに何人ぐらいとしたの?」

「え……と。さ、さあちゃん、世の中には聞かない方が、良いこともあるんだよ。芸の肥やしって言葉、知ってる?ほら、役者って、役を追及するのにそういう面もあるんだよ。」

「ふ~ん……。」

「普段からアンテナを広げていないと、人間観察もできないし。役作りの一環としての、必要な経験?……とかあってさ。」

「……煙に巻こうとしてるだろ。」

「そんなことない。おれの本気はいつだってさあちゃんだけだったんだから。本当だよ。夢の中でもおれのキスの相手は、いつもさあちゃんだった。」

*****

そんな子供じみた嘘を信じるはずもなかったが、必死に言い訳する大二郎を、禎克は笑って見つめていた。ぴっ……と小さな電子音が、二人を確かにつないだ。
仲の良い小さな恋人同士みたいに、頭をくっ付けて来ると、大二郎は写真を撮って待ち受けにした。

「醍醐さんは、大丈夫なのか?手術したんだろ?湊がニュースで流れてたって言ってたよ。」

「うん。出血箇所はすぐわかったし、手術が終わって麻酔が解けた後、意識がすぐに戻ったから大丈夫だろうって、お医者様が言ってくれたそうだよ。気が付いてすぐに羽鳥が、電話をくれたんだ。しばらくは集中治療室らしいけどね。おれにはやるべきことが、たくさん有るから、今は病院へは行けないんだ。」

「そっか……。羽鳥って、醍醐さんに付いてる人?」

「お師匠さんのいい人だよ。おれの母親が亡くなってから、ずっと面倒見てくれているんだ。うんと昔から劇団にいるんだ。おれの母親が亡くなる時に、おれとお師匠事頼むねって言ったらしい。言うなればおっ母さん公認かな。」

「そう。お母さんみたいな人なんだ。」「醍醐さん。気が付き愛樂維ましたか?俺、ここにいます。安心してください。大丈夫です。」

ゆると、ほんの少し指先が泳いだ。術後、意識さえ戻れば後遺症が残ることは少ないと医師は告げた。
醍醐の意識が戻ったのを羽鳥は心から喜んだ。大声わりに、思わず手を握ると、微かに力を込めて、醍醐がきゅっと返してくる。



Posted by だけを平らに削っ at 13:17│Comments(0)
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